一歩踏み込めば
旅の読みものブログ|Bali Travel Guide
2026.6.24



世界遺産ジャティルウィの棚田。
多くの人は車を降り、しばらく景色を眺めて写真を撮る。
それだけでも十分に美しい場所だ。
でも、その景色の中に一歩踏み込んでみたら、見えてくるものは少し違っていた。
今回参加したのは、地元で開催されたマラソン大会。
約1,700人の参加者が集まり、まだ夜が明けきらない午前5時半、会場周辺にはすでに人があふれていた。
スタート地点周辺は車両進入禁止。
駐車場からは、地元の人が運転する軽トラックのシャトルに乗り換えて向かう。
観光で訪れるだけでは、きっと経験することのない移動だった。




空が少しずつ明るくなり始める。
友人同士で写真を撮る人。
セルフィーを楽しむ人。
談笑しながらスタートを待つ人。
時折、白い息が見える。
バリ島にも、こんなに肌寒い朝があることに少し驚かされた。
やがて遠くにアグン山のシルエットが浮かび上がる。
棚田に張られた水は鏡のように空を映し、澄んだ空気の中に静かな朝が広がっていた。
コースは全長5キロ。
棚田と棚田の間を進むあぜ道は思った以上に狭く、参加人数に対して決して走りやすいとは言えない。
時折、畑仕事に向かう農家の人とすれ違う。
そのたびに足を止め、道を譲る。
レースでありながら、そこには「競争」よりも、この場所を皆で共有しているような空気があった。
朝日に照らされた稲穂は黄金色に輝いていた。
日本の稲よりも背が高く、大人の肩ほどまで伸びている。
仲良く手をつないで歩くカップル。
愛犬と一緒に走る女性。
急な坂道で足がつってしまい、笑いながら休憩する人。
順位よりも、この景色、この時間を楽しんでいる。
そんな人が多いように見えた。
折り返し地点を過ぎると、小さな寺院が現れ、バロンダンスが参加者たちを迎えてくれる。




マラソン大会でありながら、信仰や文化がごく自然に溶け込んでいる。
それもまた、バリらしい風景だった。
ジャティルウィは、車窓から眺めるだけでも十分に美しい。
でも、実際にその中を歩き、走り、朝の空気を吸ってみると、景色だけでは分からない風土や人々の暮らしが少し見えてくる。
「見る」だけだった場所が、「記憶に残る場所」に変わる。
きっと旅とは、そういうものなのだと思う。
そして、またここに来てみたい。
そう思わせてくれる朝だった。





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